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前から見たかった映画が、まつげの街で上映されることになった。
それは、出産予定日の4日前のたった1日の上映だ。
映画の題名は、「ガイアシンフォニーU」龍村 仁監督の、ちょっぴり不思議で、とても素敵な題材や人ばかりを扱っている映画。
「そんなお腹で、行けるわけないだろ。」
と、心配する旦那様に、
「今回は、チケットを買うだけ!行けなくてもいいの!チケット持ってるだけで安産になりそうだから!」
と、すごい言い訳をして、チケットを2枚手に入れた。
映画館までは、自分で車を運転して行った。大きなお腹がハンドルにつっかえそうだ。
家族中が無謀だと騒いだが、気にしなかった。
助手席には一番下の妹カナちゃんが、お目付け役についてきてくれた。
映画は、想像した以上の素晴らしさだった。まつげの大好きなジャック・マイヨールや、ダライラマ、佐藤初音さんの言葉のひとつ
ひとつが、勝手に胸にしみ込んできて・・涙を流しながら
「ああ、もう(出産の)準備が整った。いつ生まれてきてもいい。」
と、つぶやく私に、妹がハンカチを手渡してくれた。
ラストシーンとともに、アベマリアが映画館いっぱいに響き渡った。
悲しくもないのに、涙が、勝手にあふれ出し、ポツポツと太ももの上に涙の模様を描いていく。
もうこれ以上は、泣けないぐらいだった。
ハンドバックから化粧直しのコンパクトを取り出してのぞくと、顔は、涙でぱりぱりになっていた。
直しようもないひどい顔。「ちょっと、これみて」と、妹に顔を向けると、カナちゃんは大笑い。
思わずまつげも笑ってしまった。
ちょうど、その10時間後。
まつげの初めての赤ちゃんは、この世に生まれてくることになる。
朝5時。
お腹が痛くて目がさめた。どうやらお腹をこわしたらしい。
トイレ、トイレ…いや、まてよ?これって陣痛???
時計をみながら時間をはかってみると、痛みは、定期的にやってくる。時計をみながら測るとすでに5分間隔になっている。
思わず一瞬血の気が引く。
「10分間隔になったら来てくださいって言われてたのに・・・。」
しかし、どうせ急いで病院に行くつもりは無かったので、ま、こんなもんかと思いつつ、改めて目をこすり起きる準備。
まつげの隣のお布団で、無邪気な顔で熟睡している夫は、ギリギリまで寝かせてあげようと、1人でのんびりと病院にいく準備を始める。
5分間隔だから、早くても今から5、6時間はかかるだろう。遅ければ明日になったりして。
出産は、体力勝負だというから、朝食を食べることに。リビングには、まだ誰もいなくて、食べれそうなものも、昨日の夕食の残りのおかず「豚キムチ」しかない。
よりによって…ブタキムチ・・・・うーん。しかたない。(もりもり食べる。)
「ママがんばるからね。」
お腹に話しかけた。でも、今から出産なんて、なんだか信じられない。
行く用意が完了したので、夫に声をかけて起こすと、ものすごく寝ぼけていて、
「ああ、もう行くの?じゃ、僕はかごをもっていけばいいんだね??」などと言う。
それは退院のときに必要なものでしょう。
不安になったので、一番下の妹カナちゃんを起こした。
寝起きのいい彼女は、すぐに起きてくれた。
しかし、物音を聞きつけて、家族全員起きてきた。
2人の妹、カナちゃんとカヨちゃんは、ちょっと興奮気味だ。
「えーー!いよいよなの?がんばってねー。おねーちゃん。」
「私はおばちゃんとは呼ばせないわ。」
「早く赤ちゃん抱っこしたい・・。」
と、いつまでもにぎやかだ。大仏のようなボサボサの頭で起きてきた父と、やけに嬉しそうな母。
「いつ生まれるのかな?」と大仏顔の父。
「満潮でしょう。」
と、物知り顔の母。
「いや干潮だろう。」
「ばかね!干潮は死人がでるのよ!」
まったく、これから出産だというのに、縁起でもないことで言い争っている両親だ。
「もう、そろそろ行くわね。」
朝刊までとってきて、今が、満潮か、干潮かを調べている両親に、まつげは声をかけた。
慌ててみんなが盛大に送り出してくれた。
まるで、今からオリンピックにでも出場する気分だ。
結局、病院まで送り届ける大役を引き受けてくれたのは、6歳下の妹カナちゃん。運転は、若葉マークだ。
車を運転しながら私を気遣ってくれる。
「大丈夫?ねえ?おねーちゃん大丈夫?」
赤信号で急ブレーキ。時々溝に落ちそうなぐらい左より。
おぼつかない運転に、こっちが大丈夫か聞きたかったが、なんとか言わないで我慢した。
寝ぼけている夫と、若葉マークの妹。夫の方が良かったのかな?究極の選択だわ・・・。
そう思い1人でクスッと笑った。
陣痛がないときは、大笑いでもできる。しかし、笑っているまに陣痛の間隔が
5分から4分、3分とせばまってきた。
陣痛といっても生理痛みたいなもの。陣痛を逃すため、ろうそくを吹き消さないぐらいの演歌の呼吸で、
ゆっくりと息をはきだしたら、容易に乗り越えられる。
これは、お腹をこわしたときの痛みをのがすために、まつげが編み出した呼吸法で、陣痛を逃すのにも、素晴らしい効果がある。
それよりか、さすがに陣痛3分間隔とか言ったら、病院で怒られるかも?いつもの優しい看護婦さんに当たりますように…
とにかく、そればっかりが気になった。